このブログでも度々紹介している「図形商標」ですが、これは元々自社のオリジナルブランドを守るための制度です。とは言え、我が子(自社ブランド)が可愛いあまり、一般的に見てもこの図形に商標侵害を訴えるにはさすがに少し無理があるだろう、と思われる例が少なからずあったりします。
数年前に天下のルイ・ヴィトンが、浅草の仏具店、滝田商店に送りつけた警告文もその1つの例です。これは、滝田商店で販売していた「市松模様をあしらった数珠袋」の柄が、ヴィトンが「ポルトフォイユ・サラ ダミエ・アズール」に使用している「ダミエ柄」に対する商標権侵害である、と言っているわけです。
画像①と②を比べてみて下さい。形は同じですが、そもそも数珠袋の柄は、市松模様という日本人にとっては当たり前の、いわゆる「一般的な柄」です。江戸の中期に歌舞伎俳優の佐野川市松が着た袴の柄から来ていて、1888年にヴィトンがダミエ柄を採用した時代より100年も前のことです。他国の文化と歴史を無視した、どう見ても理不尽な警告ですが、滝田商店はビビったのか即刻販売を中止してしまいました。相手が天下のヴィトンですから、一商店としては仕方がないのかもしれませんが・・・。
しかし、この商品の製造元である京都の神戸数珠店は、このイチャモンに泣き寝入りせず、特許庁に判定請求を行った結果、見事にルイ・ヴィトンに勝利しました。特許庁の判定文には「比較をするまでもなく(商標の侵害には当たらない)」と言う表現があり、この強い言い回しからも、いかにこの案件が理不尽で馬鹿馬鹿しいものであったかが伺えます。
佐々木店長も会社員時代、経営統合したある会社の新ブランドロゴの商標調査を行っていた時に、国際的に有名なカード会社から商標侵害の警告を受けたことがあります。単にロゴを構成する図形の数が同じなだけで「どうみても似てないだろう」と思われるデザインなのですが、業界では何かと屁理屈をつけて文句を言ってくる有名な企業だ、と後から聞いた覚えがあります。
市松模様と言えば近来では、鬼滅の刃の炭治郎の衣服の柄の商標登録出願が、特許庁から「普通に使用されている装飾的な図柄を超えているとは言えない」という理由で拒絶された案件も耳新しいところです。言う方と言われる方、双方の思惑もからんで難しい判断ではありますが、この例のように圧倒的に認知度の違う企業の戦いでは、「窮鼠猫を噛む」的な行動に出られずに、結構泣き寝入りするところも多いのではないかと推察されますね、残念ながら。
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